湯煙コラム


■KaoRi(カオリ)
たゆたう水の絵に、身体と水とのつながりを感じて


KaoRi(カオリ)

ジャイロキネシス&バレエダンサー。幼少の頃から踊り始める。ロシア・バレエ・インスティテュート、漆原宏樹バレエスタジオを経て、コンテンポラリーダンスの道へ。15歳より短期留学を繰り返し、スイス留学。フランス・パリに留学中、Coca-Cola USAより若手アーティストのためのスカラシップを受賞し、NY・マーサ・グラハム・スクールで学ぶ。イスラエル・The batsheva dance ensembleで研修。パリ拠点にフリーで活動。
帰国後もダンサー、振付家、モデル、女優、イラストレーターなどジャンルを問わず国内外で活動。近年は、好きなことを好きなかたちにして広めていこうと、講師として、指導にも力を入れている。ジャイロキネシストレーナー資格所持。
カメラマン、荒木経惟氏の作品集『Nobuyoshi ARAKI KaoRi by 20x24 INSTANT FILM』(eyesencia刊)のモデル。


ジャイロキネシススタジオ


熱くもぬるくもないお湯を、内臓を隠す高さまで張って半身浴をする。
音楽をかけて振付を考えたり、空想に耽っていると、おでこのてっぺんが湿ってきて、やがて水玉になる。
顔を伝って。目や口に入って滲みる。むむ。今日は、味が薄いな。それからだいたい20分。
音を止めて、ぼんやり1日の予定を考えたり、振り返ったり。これがわたしの日常的なお風呂の入り方。


わたしはダンサーです。
といっても、仕事の幅はかなり広く、あるPV撮影では、車一台をひとりでハンマーで叩き潰しながら窓ガラス舞い散る中で踊ったり、あるファッション撮影では、真冬にノースリーブ姿で20回連続でジェットコースターに乗ったこともありました。私は大丈夫でしたが、監督はかなり大変そうでした(笑)。
過酷そうに思われるかも知れませんが、その日、1日に全てを出し切ることに手応えを感じるので、そんな現場ほどわくわくします。でも、終わった後は、げっそり蛻の殻。そのからっぽを満たしてくれるのは、あたたかなお風呂です。
冬は、日本酒を大胆にどばっと入れて入るのが、お気に入り。カオリがとてもよいのです。
なかなか落ち着けない現場で、目を閉じて深呼吸しながら想い描くのも、たゆたう水の絵。
ブラジル人女流画家のアドリアナ・ヴァレジョンの浴室の絵が大好きです。
タイルの浴槽と水だけがモチーフなのに、不思議と身体と水とのつながりが感じられて、イメージするだけでも肉体のどこかが緩むような気がします。


背中がカチコチに固まって、呼吸が浅くなると、大きなお風呂へと出かけます。
サウナの種類が多くて飽きないし、人が沢山いるので韓国サウナによく行きます。目的は、水風呂。
サウナで茹できった体を、息を殺してざぶんと水風呂に沈め、水中で乾布摩擦するように全身くまなく擦り続けていくと、なんともいえない熱に包まれて、深い呼吸が戻ってくるのです。
途中凍えますが、それを乗り越えるのがまた溜まらなく楽しい、贅沢なひとり遊びです。
この行水を何度か繰り返していくと、全身の余計な力が落ちて、生まれ変わったように身も心も軽くなります。
ただ、周りに人がいる水風呂で波を立てると、とても嫌な顔をされるので気をつけないといけません。


それから、一言で『身体』と言いますが、本当に沢山のパーツがあって、感覚と機能があって。
刺さるほど冷たい水の中でその変化を丹念に味わっていると、心が無になり、温かさとともに感謝の念が沸きあがってきます。
普段酷使しているうえに、お風呂場でも甘やかさないわたしですが、いつもついてきてくれてありがとう、からださん。
と、無言で語りかけてあげるのです。生きていると、体が動いているのは当たり前ですが、本当はそれ自体、奇跡的な事。
愛されると輝くのは、人も体も同じです。死ぬまで一緒に踊っていたいから、そんな時間を大切にしていきたいです。


そういえば最近、友人に池尻大橋のお風呂場。ならぬ、お風呂バーに連れて行ってもらいました。小さな店内に、ぴかぴかに真っ白なジャグジーがぽわんと置かれた光景は、お風呂が男と女を確認する場所でもあったという事を、はっと思い出させてくれました。

マニアックなひとり風呂もいいけど、ときめきホルモンも忘れてはいけませんね!

『湯煙』立たないコラムになってしまいましたが、どうぞどうぞ、あたたかい冬をお過ごし下さい。

文/KaoRi(カオリ)

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