湯煙コラム


■首藤康之(しゅとう やすゆき)
海外のホテルでも「バスタブ付き」は第一条件!


首藤康之(しゅとう やすゆき)

15歳で東京バレエ団に入団。クラシックバレエをはじめ、モーリス・ベジャール、イリ・キリアン、ジョン・ノイマイヤー、マシュー・ボーンら世界的現代振付家の作品に多数主演。2004年東京バレエ団を退団、特別団員となり、国内外で活躍中。最近では「The Well-Tempered」、「時の庭」、2011年新国立劇場にてシェイクスピアのソネット集を舞踊作品化した新作「Shakespeare THE SONNETS」発表など、中村恩恵との創作活動を積極的に行っている。第42回舞踊批評家協会賞受賞。第62回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。

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ぼくは大分の出身で、祖父母の家は温泉地である別府にありました。この街では、公衆浴場がいたるところに見受けられます。番台さんがいるきちんとした大きな銭湯から、脱衣場の片隅にある木箱に入浴料を入れるだけという素朴な温泉まで、本当にさまざまです。かつて別府では、銭湯だけでなく個人宅のお風呂も多くが温泉でしたから、祖父母の家へ遊びに行くたび、お風呂に入るのが楽しみでした。温泉は湯冷めしにくいので、寒い冬でもいつまでもぽかぽかしていました。子どもの頃の、楽しい思い出です。


大人になり、お風呂に入る意味もずいぶん変化してきました。ダンサーにとって、身体のセルフメンテナンスはいつでも最重要事項です。ですから、朝は熱めのシャワ-で身体を素早く起こし、夜は湯船にお湯をためてゆったり入るのを日課にしています。これは国内にいるときだけでなく海外でも同じで、一日の終わりに湯船に浸かるのは外せません。


海外公演の契約にも、地方の小さな都市などのやむを得ないケ-スを除き「バスタブ付きのホテル」を第一条件に入れているほどです。ホテルにバスタブがあるかどうかなど、一見細かいことのようですが、ダンサーはパフォーマンスに照準をあてて暮らしのすべてを営んでいますから、いい仕事につなげるためと思えば当然のこと。宿も食事も、ぼく以上に細かい条件をつける人も少なくありません。ベジタリアンの方が食事を自分向けにきちんと注文するように、入浴方法もできるかぎりぼくにとってベストな環境を注文するというわけです。


お風呂で湯船に浸かる良さは、何といっても浮力です。舞台の上では重力に逆らうような動きが多いですし、普段から姿勢を保つため、知らずしらず一日中身体のどこかに力がかかっています。こうした"力み"で固まった筋肉と関節がお湯の浮力で解放されることで、物理的にも心理的にもリラックスして疲労回復につながります。また全身をお湯で温めると筋肉がゆるみ、関節の動きがよくなるのもいいところですね。


みなさんも、とくに立ち仕事などで疲れている方は、お風呂の中で足をほぐす動きがおすすめです。足の指の間に手の指を絡ませて、手と足が「握手」した状態で足首をゆっくり数回まわしてみてください。しばらくしたら方向を変えて、またゆっくりまわします。足の指は、広げるための専用健康器具があるほどですから、とても気持ちいいはずですよ。ためしにお風呂に入る前と出た後にストレッチをしてみると、柔らかさの違いに驚かれることでしょう。


毎日忙しくしていると、ときには疲れ果てて「もう、シャワ-でいいや」「明朝、入ればいいや」など、お風呂をあきらめたくなる夜もありますよね。でもぼくはそんなときこそ、心身ともに翌日最良の状態につなげるため、できることはその場でやろうと自分に言い聞かせるんです。お風呂で取れる疲れなら、入って取った方がいい。なによりこうした毎日の積み重ねが、5年後10年後の自分の健康や美しさを作っていくと思えば、手を抜くわけにはいきませんよね!

文/首藤康之(しゅとう やすゆき)

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