◆湯煙コラム◆
■脚本家・西田征史(にしだ まさふみ)
夜明けのバスル-ムで心身をリセット
東京都出身。学習院大学法学部卒業。脚本家、演出家、小説家。
高校卒業後、大学に通いながらお笑い芸人・俳優としての活動を始める。その後、舞台を中心に脚本家・演出家として活動。脚本を手がけ自らも出演した映画『ガチ☆ボ-イ』で好評を博し、脚本家としてドラマ『魔王』や『怪物くん』『妖怪人間ベム』といった人気作から、NHKの教育番組『シャキ-ン!』、アニメ『TIGER&BUNNY』など幅広いジャンルで話題を集める。2012年、初のオリジナル小説『小野寺の弟 小野寺の姉』を出版。日経エンタテインメント、「ヒットメ-カ-・オブ・ザ・イヤ-2012」の準グランプリ受賞。
9月22日より全国公開『劇場版 TIGER&BUNNY The biginning』
公式ブログ「胸毛コンプレックス」
連続ドラマの脚本を書いている時期は、一日の睡眠時間が平均2〜3時間程度。あとはひたすら執筆に没頭しています。寝るのもつい夜を通り越して明け方になってしまうのですが、どんなに遅くなろうと入浴は欠かしません。たとえ短い時間しか取れなくてもシャワ-だけで済ませず、湯船にお湯をためて入るのが基本です。フロに入るとき、いつもぼくは脱衣所のみ明かりをつけて風呂場は暗いままにしておきます。世間はこれから朝を迎える時間帯でも、ぼくにとっては寝る前なので、ぱっちり目が覚めては困るからです。湯船に浸かるときは、何故かふたを全部取らないというのも習慣になっていますね。夜明け前のほの暗いバスル-ムで、半分ふたのしまった湯船からぼんやり首だけ出す一人の男・・・想像するとかなりおかしな画ですけれど、これがぼくにとっては仕事で疲れた心身をリセットする欠かせないひとときになっています。
自宅でのバスタイムはこんなふうに静かに過ごしていても、ドラマで描く風呂は、ワイワイにぎやかな交流の象徴になることもあります。2008年公開の映画『ガチ☆ボ-イ』では、佐藤隆太君演じる主人公の実家が銭湯という設定なので、彼の所属するプロレス研究会の部員がいっしょに銭湯に入ることで仲間の絆を表現しました。実際、裸の付き合いができる場なんて公衆浴場ぐらいしかないですよね。だからこそ、腹を割って何でも話す場面づくりに銭湯という舞台は便利。このときには、北海道の深川市にある築70年あまりの歴史ある銭湯でロケを行いましたが、なかなか趣がありました。出演者やスタッフも現場でさらにイメージが膨らんだみたいで、アドリブも飛び出し、とても良いシ-ンになったのを覚えています。
一方、主人公の心情を表現したいときにも、ちょっとした風呂場のシ-ンを入れ込んでいます。僕が書いた小説『小野寺の弟・小野寺の姉』では、主人公の姉が入院している間に、もう一人の主人公である弟が風呂場を洗うシ-ンが出てきます。「姉さんのいない家で、彼が何をしているんだろう?」と想像で丁寧に追ってみたところ、自然に浮かんだのがこのシ-ンでした。それだけ、お風呂というのが生活に入り込んでいるということでしょうね。
こうしてあらためて考えてみると、バスタイムとは人によってかなり違うものだということに気がつきます。ただ体を洗って温まるだけでなくバスグッズにこだわったり、人によっては読書をしたり音楽を聴いたりも。自分の趣味趣向が出るというか、本当に何でもあり。どこの家庭にもある'風呂場'という空間ですが、そこで何をするかまったく自由なんてちょっと不思議に思えてきました。今後も、登場人物の生活や性格を切り取るようにお風呂のシ-ンを登場させるかも。
脚本を手がけたアニメ『TIGER&BUNNY』のようなヒ-ロ-もので登場させても面白くなりそうですね。きちんとバスタイムが描かれたヒ-ロ-なんて、これまでにあまりいなかった気もしますし、二次元のキャラクタ-に生活感を出させることで更に身近な存在に感じていただけるかもしれません。チャンスがあったら書いてみたいですね。
文/脚本家・西田征史(にしだ まさふみ)
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