湯煙コラム


■本谷有希子(もとや ゆきこ)
「私を癒すバスタイムの友 それは『ふろぼん』」


本谷有希子(もとや ゆきこ)

小さい頃は妄想癖があって、お風呂の中でよく「独りごと」を言っていました。
お芝居やドラマのようにシーンを設定して、「もし、いま自分がこういう場面にいたら」と想像しながら、セリフのようにしゃべっていたんです。たとえば、お風呂に入っているのを、たまたま通りかかった好きな男の子に見られたら…みたいな感じで。
それをしょっちゅうやっていたら、ある日、向かいのおじさんが訪ねてきて、「お宅のゆきちゃん、お風呂でずっと何か言っているけど大丈夫?」と家族にバラされてしまい、それはもう恥ずかしかったのを覚えていますね。演技していたんですよ。ただの独り芝居です(笑)。

現在のバスタイムは、ただただ癒しを求めて頭を空っぽにするひとときです。
若いころは、とにかく清潔になればそれでよかったし、時間を惜しんでシャワーでさっとすませることも多かったのですが、ここ数年は、忙しいときほど湯船に浸かるのを身体が欲しています。それにちょうど今のように舞台の台本を執筆中だったりすると、常に頭を使ってばかりなので、できればバスタイムぐらいはゆっくりして、何も考えないようにしたいのです。

ところが、本来ボーッとするのが苦手なようで、身体が何もしていないときほど頭は冴えて、つい考えごとをしてしまいます。
そこで私が思いついたのは、お風呂で本を読むこと。「けっきょく頭を使っているじゃないか」と思われるかもしれませんが、ここで私が読んでいるのはもっぱら実用書です。ビジネスなどの実用書は感動するためのものではないので、そういう意味では感性に届かないから、これが意外と安らげる。それになぜか実用書って、読み終わってもしばらくすると忘れてしまうので、何度でも読み返せるんです(笑)。

ほかにもパラパラと好きなページの拾い読みができる、ショーベンハウアーの格言集とか、難しい内容でなおかつ短い文章で構成されている本も選びます。
こうしたお風呂専用書籍、名づけて「風呂本(ふろぼん)」を、何冊か常備しています。

ただ、最近気づいたのですけれど、お風呂で本を読んでいるといつも上半身が湯船から出ていて、肩が冷えてしまうのです。私は肩こりがひどいので、本当は、肩こそ温めなくてはいけないですよね。でも、首までお湯に沈めると、今度は本が濡れてしまいます。
そこで、私がいま探しているのは、防水仕様になっていて肩を温めてくれる布のようなもの。または、浴槽の両端に渡して使える風呂用机ですね。絶対にあるはず!と思うので、よりバスタイムを快適にできるよう、風呂本のためのグッズを探している最中です。

(文/本谷有希子)

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