湯煙コラム


■室井佑月
「室井家のONとOFF」


室井佑月

風呂はかなり好きなほうだと思う。


月に二回は確実に都内の温泉施設へ、年に五回は他県の温泉にも足を伸ばす。

考えてみれば、たまに取れる休暇には、かならず大きな風呂にいっているかもしれない。


なぜだろう?普段は激務に明け暮れて、風呂になぞゆっくり浸かっている暇はないからだろうか。

たぶん、そうだ。


室井家の一日は「早く!」というかけ声ではじまり、「早く!」というかけ声で終わる。

あたしは唯一の家族である小学一年生の息子に、一日何回「早く!」という号令をかけているだろう。

多すぎて、予測もつかない。


それもそのはず。

仕事をして、洗濯をして、ご飯を作って……。

それらをすべてこなすと、すぐ寝る時間だ。


風呂になんか長く入っている暇はない。

「早く!」というかけ声をかけながら息子と自分の頭と身体を洗い、やたらと早口で百まで数えて湯船から飛び出る。


一昨年、念願叶って自分の家を持つことができ、その時、風呂にはかなり金をかけたというのに。

全部、リフォーム。

円形の大きな湯船に代え、壁にはテレビまで付けた。


それはもちろん、大好きな風呂にゆっくりと浸かるためであったが、実際には自宅の風呂でゆっくりしたことはない。


忙しい時など、汚いと思われる部分だけ洗えばいいか、という感じだ。


だからこそ、温泉施設へいったら、できるだけだらだら過ごしたいのかも。


酒を飲んで風呂に入って、酒を飲んでまた風呂に入って、眠くなったら横になって……。

あたしはそういう楽しみ方が好きだ。

というか、そういった時間を過ごすため、温泉施設へわざわざ出向く。


そのため、畳敷きで酒が飲めるレストランがない温泉施設へはいかない。

畳があると座布団を枕にし、すぐごろんと横になれるからいい。


温泉フレンドでもある息子とは、そういった面でとても気が合う。

息子はまだ子供で酒の相手はできないものの、温泉施設にいってだらだらするのが大好きだ。


はしゃいで走り回ったりなぞしない。

ゆっくりと風呂に入り、レストランではゆっくりとかき氷を食い、そして食い終わると座布団を枕にし、すぐ横になる。


あたしたち親子はテーブルを挟んで、横になったまま意味のない会話をする。

「ママ、天井、見てごらん」
「見たよ」
「こっちを見てる目があるよ」
「ああ、ほんと。

木目の模様が目みたいだ」
「じっと見てる」
「じっと見てる」

ほんとうに意味のない会話だから、話している途中で、どちらかが眠ってしまったりする。

身体が冷えてくるとどちらかが「また風呂にいこう」と誘う。

で、風呂に入って暖まると「レストランでなんか飲もう」という話になる。


あたしは息子と過ごす、こういったゆったりとした時間が大好きだ。


けれど、悲しいかな、こういった時を過ごせるのは期間限定。

東京都の条例によると、九歳までしか一緒に風呂に入れないらしい。


息子は現在、七歳。

あと何回、あたしたちは一緒に温泉施設へいけるだろうか。

(文:室井佑月)

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