◆湯煙コラム◆
■伊藤聡子
「お風呂に目覚めさせてくれた、彼。
」
子供の頃からじっとしているのが苦手だった私は、かつてお風呂と言えば10分以内で済ませるのがあたりまえ。
湯船に浸かって5秒でぷはーっ、と飛び出ていた。
そんな私にお風呂神話を目覚めさせた人物がいる。
あれは25歳の春、大阪で初めてニューハーフパブに連れて行ってもらったときのこと。
ひらひらした衣装を身にまとった彼らが恥じらいながら踊る姿は女性以上にたおやかで美しく、しばし呆然と見入っていた私。
ほどなくショータイムが終わり、一番年上のカナさんが「あらぁ、本物がいるわ〜。
」と、私の横に座った。
近くで見るとさすがに厚化粧だし顔も大きく、やっぱり男の片鱗はあるのねと、本物としては少々胸をなでおろしていたのだが、ふとした瞬間に触れた彼の二の腕にびっくり。
赤ちゃんのようにふわっと柔らかく、滑らかな感触だったのだ。
「うそー!」と思わず彼の手を取ってみると、指先まで真っ白。
さらに首筋から胸元まで陶器のようにつるつるで、厚化粧だと思っていた顔もファンデーションはほとんど塗っていないという。
どう考えても私の知っている中で彼が一番きれいな肌だった。
私も女である以上この美肌の秘密を聞かないわけにはいかない。
彼は諭すように教えてくれた。
「お風呂次第なのよ、オ・フ・ロ。
毎日日本酒をコップに一杯湯船に入れて、あら塩を頬骨から鼻にちょっとずつ載せるの。
私は腕にも載せてるわ。
そしてじわーっと汗が出てくるまでゆっくり浸かるの。
あせっちゃだめよ!私なんか1時間は毎日お風呂にいるんだから。
で、そのあとはベビーローションを全身に塗って常に磨きをかけるわけ。
あなたせっかく女なんだからお肌もかわいがってあげなきゃだめよ。
」
私はこの瞬間から一転お風呂信者になった。
東京に帰って言われたとおりに実践してみたところ、確かに日本酒風呂はすべすべになるらしい。
ただ女性の肌にあら塩は刺激が強かったらしく、頬がちょっと赤くなってしまったのでそれはやめてしまった。
とにかく大切なことは湯気に満たされたお風呂で自分に合った入浴剤やお酒などを湯船に入れ、のんびりじっくり汗をかくことなのだ。
最近の私のお風呂スタイルは、まず通販で買った「明礬の花」という入浴剤をスプーン1杯入れる。
これはミネラルたっぷりで入った瞬間しっとりと肌をつつみこむような滑らかさがあり、肩凝りや冷え性にもいいらしい。
そして湯船に浸かりながら古くなったNHKラジオ講座の本を開いて英語の復習をする。
講座2日分を声に出しながら復習するともう滝のような汗が流れる。
仕上げは冷水をかけて肌をひきしめれば、身体の芯からすっきりしたような気分。
あ〜気持ちいい!あんなにおざなりにしていたバスタイムはもはや私にとって欠かせないハッピータイムだ。
カナさんは今どうしているのだろう。
美肌へのあくなき追求はきっと続いているに違いない。
いつか会うことがあったらまた新たな秘策を教えて欲しいなぁ。
(文:伊藤聡子)
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