湯煙コラム


■YOU
「『パッシャーン』のお風呂ライフ」


YOU

冬はタイルが冷たくて、湯舟までの2・3歩がとても遠かった。

うちの実家は脱衣所も寒くて、今日びのお風呂というのとは全く違っていました。


小学3年のある日、お風呂でおじいちゃんの幽霊をみました。


あくる日に市内めぐりをひかえた私は、いささか気が立っていて、めずらしく夜中に喉が渇いてキッチンへ。

キッチンの奥にあるお風呂から、
「パッシャーン、パッシャーン」
って湯を流す音がして。

夜中だったので、おそるおそる風呂のドアを開けると、おじいちゃんが背中を流しているんです。

当時祖父は八王子に住んでいたので、
「おじーちゃん来てたんだ」
と言うと、
「ああ、そうなんだよ」
と、言いながら、背にお湯を浴びていて。

「おやすみ」
と言うと、
「おやすみ」
と。

市内めぐりに出かけようとした朝、電話で祖父の死をきかされました。

「そういえば、きのうおじーちゃんお風呂に入っていたよ!」
と言う私に、父が、
「じゃあ、ここにもあいさつに来たんだね」
と。

不思議な体験でした。


冬には冷たいタイルを踏んで湯舟につかるのが、あんなに寒かったのに、いつのまにか好きになっていて・・・。

今のうちは、セントラルヒーティングで脱衣所もあたたかくてつまらないのですが、おととしまで住んでいた古い日本家屋では、それが快感で。

家族みんなに反対されても、脱衣所にヒーターをつけませんでした。

なんだかお湯のありがたさが半減するようで。


高校から、一人住まいをするあたりまでは、お風呂は私だけのとても大切な時間になってました。

色々と持ち込んで。

学生の時は、変な話、おせんべと牛乳を持ち込んで、湯舟で食すのが大好きで。

好きな人の事とか考えて。

一人で住んでからは、もっぱら読書ですね。

あらゆる本を一時間位は平気で。

パックもしたし、マッサージも。

お風呂の中に、すごい荷物で。

ろうそくをつけて入ったりしてましたし。


今は息子とのコミュニケーションの場でもあるし、リビングより重要です。

建てませんけど、家を建てたら、こだわりたいのはお風呂と玄関だけですね。

あとは、あったらどうでもいいくらい。

できれば空がたくさん見えたらいいし、湯舟以外は寒い方がいい。

毛穴がぶわ〜って広がる感じが、私にとってのお風呂なんです。

なんだか、どこでもいつでも快適なのが苦手なんです。

気持ちが平らになるみたいで。

お風呂ライフはうるさい方ですね、きっと。

ヨーロッパのシャワーとか心からむかつきます。
やはり、
「パッシャーン」
って音が聞こえないと、一日が終わらない。

どんなに酔ってても、一日の最後は必ずお風呂なんです。

(文:YOU)

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