◆湯煙コラム◆
■大槻ケンヂ
「お風呂で考えた○○」
風呂ブームの頃があった。
突然なぜか、お風呂にトップ゚リとつかりたくてたまらなくなり、あっちこっちの風呂にでかけまくったのだ。
都内であれば、荻窪ゆーとぴあ、瀬田温泉、深大寺ゆかり、大江戸東山温泉、東京健康ランド、平和島クアハウス、練馬お風呂の王様、麻布十番温泉、などなど。
バンドツアーに出かければ、大阪新世界にある世界の温泉とか、その土地土地にある温泉、スパランドを巡り歩いた。
もう少し時間があれば一泊旅行だ。
箱根塔之沢の環翠楼や福住楼、四万温泉の積善館など、レトロな作りの温泉宿を訪ねたものだ。
ゆったりと湯につかりながらさて何を考えるのかと言えば……考えてはいかんのである。
風呂の中ではアレコレ考えてはいけないのである。
考えるのではなく想う、ぼんやりとイメージに身をまかせる、これこそが入浴リラックスの秘訣であろうと僕は思うのだ。
それはちょうど眠りと一緒で、解決するはずもない世俗の悩みを考えているうちは決して眠ることはできない。
それより羊でもなんでもよい、とりとめのない空想を頭の中に浮かびっぱなしに放っておけば、やがて眠りの方からつかまえてくれる。
風呂の中でも、考えるのをやめ、想像に浸っている内に、リラックスの方からこちらの心と肉体を持っていってくれる。
で、風呂を上がってから考えればよいのである。
スパランドなら休憩ルームで、温泉宿なら部屋に戻って、精神の開放された状態で、今度は当面の問題を考えたなら、アルファ波の影響なのかはたまたマイナスイオンの仕業なのかは知らないが、これが不思議と解答解決策といったものがハッ!と浮かぶのだから風呂効果とはまったく偉大だ。
僕の場合は風呂上がりの一時に、歌詞を考えるのである。
現在『特撮』というロックバンドをやっていて、歌詞担当を割り当てられているものだから、レコーディングの直前になると、僕は暇を作って風呂巡りの旅行に出るのだ。
特撮はパンク寄りのハードロックバンドで、おのずと歌詞の内容も「燃やしてしまえ!」「叩きつけろ!」といった感じの、アナーキー&デストロイドな過激なものにせざるをえない。
しかし実は、風呂上がりにビールなど飲みながら、ホカホカヌクヌクいい塩梅の状態で歌詞づくりをしていたのだ。
今回始めてカミングアウトしてしまいましたが、いや本当、ロックの歌詞づくりは風呂上がりがいいっスよ。
また行こう。
(文:大槻ケンヂ)
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